一枚の紙から

   

とある日の、戦いも一段落つき皆が思い思いに休息とっているとき
それは訪れた。

ある意味マイペースを崩さない炎の英雄ライズの傍らで物事を見ていると
非常に疲れるのだ。
普段とはもう、比べ物にならないくらいに・・・。


騒々しい声とともに“バタンッ”と扉が開いたかと思うと、
考えていた通りの人物が興奮した表情をしながら歩み寄ってくるのが見えた。
とても鬱陶しい。平穏な時間がガラガラと崩れてゆく。
もはや体の向きを変え正面から見ようなどという気さえ無くなる程に
疲労はピークに達している。せめて手の内で転がしてくれるサナが
傍にいたならば・・・と、叶わぬ期待を抱きつつ発せられる言葉を受け止める。

大丈夫だ、きっと乗り切る事が出来るはず。

「ゲドッ!!見てくれよ。」
いや、見たくない・・・

「これ、何だと思う!?」
・・・俺を巻き込むな・・・・・・・


「・・・・知らん。」

全く返事をしないのもどうかと思い、冷たく一言吐き捨てるが
どこまでもマイペースを崩さない炎の英雄その人はゲドに詰め寄る。

「ゲドは、これ見て何も思わないのか!?地図、宝の地図だぞっ?」

それがどうしたのだ?と冷たい視線で訴える。
黙りを決め込むその姿に、周りに落ちていた紙を無造作に取ると
サラサラ文字の羅列を書きなぐり眼前に差し出したライズは一言

「頼んだぞ。」

そう宣うと部屋を出て行った。



無視だ・・・・それが一番良い。
関わり合いにならないのが一番被害が少ない。
・・・・・・が、異様な存在感を放つ何の変哲も無い紙が
気になる。
無視したいところだが、気になるのもまた正直なところ。

ジッと紙を見つめ一頻り考えた後、決意を固めひらりと表に返した。


たった一言。
『俺は用事があるから見つけてこい』




なんて自分勝手な言葉だろう。
そんな言葉だけでは「何を」「どこから」見つけてくるのかそれすら不明だ。
と、朧げな記憶を遡ってみる。

「・・・・・・・ち、地図・・・・か?」

頭の端に引っかかった言葉を口に出してみて、軽いめまいを覚えた。
ふらふらと視線を彷徨わせてみれば年代物の古い紙切れが落ちている。
崩さないようにそっと持ち上げてみれば、ミミズがのたくったかのような
見た事も無い理解不能な文字とともに、幼児が描いたような
どこを指しているのか分からない絵が描いてあった。

「・・・・・・・・・・・・・」

不明だ。

これの、どこを見て、宝の地図だと思ったのか・・・。

「・・・・絵らしきものに、文字らしきもの・・・、意味なんてあるのか?
俺にはどう考えても地図には見えないが・・・。ヤツには地図に見えていたのか」

頭を抱えながら、地図らしき紙切れを凝視する。
そうしたところで何か解決するわけではないと思うが・・、
気分はもはや逃避状態だ。


「ゲド、いるの?」

部屋の外から天の声が聞こえた。

“サナ”だ。

  わらにもすがる勢いでガバッと内側から扉を開けると
外で唖然としてる彼女がいた。

「・・・ど、どうしたの、ゲド?」

「これを・・・見てくれ。」
あえて何も言わず、古い紙切れをサナの前に差し出した。
最初は訝しげに見つめていたサナではあるが
眼前の古い紙に何となく見覚えがあり、暫し考えてみた。

「・・・・あっ。」

「分かったのかッ!!」

助かった。と続けようとしたゲドを遮って否定の言葉。

「い、いえ・・・知らないわ。」

一瞬、しまったっ!!という表情をしたサナは
すぐに素知らぬ顔をすると間髪あけず言葉を返した。
だが、表情の変化を見逃すゲドではない。
事と次第によっては、自分の身に何が降り掛かるか
分かったものではない。
あの男、ライズは何を仕出かすか分からないところがある。
何度か苦い思いをしているうちに、簡単に無視をしては
駄目だということが分かってきたのだ。
どんな些細な事も見逃さず最大限に利用する。
これが、平和にやっていく秘訣なのだ。

どういうことだ?とジリジリ詰め寄るがサナは頑だ。
普段ライズを手の内で転がしている彼女を見ているだけに
今のその姿は奇妙にうつる。
表情に必死さが伺えるのは気のせいだろうか。

そして、押し問答はさらに必死なゲドに軍配があがった。

「いい、ゲド?絶対に私から聞いたなんて言わないでね。お願いよ?」



“これは、作戦なの・・・”


用件だけ簡潔に伝えたサナは部屋を出て行った。

簡潔すぎる言葉に、またもゲドの頭は思考の迷路に入り込む。
主語が抜けた言葉では文が成り立たないのは当たり前の事で、
例にもれずサナの言葉から何かを知るということは不可能だ。

「まったく・・・あの二人はどうでもいいところばかり似ているな。」

ゲドの独り言は必要最低限のものしかない部屋に虚しく消える。
取りあえずは意味不明の地図?を解読しなければ。
見つかるものも見つからなくなってしまう。

「この文字は・・もしかしてシンダルに関係するものか?」

そう考え、即座に違うと断言する。
こんな妖しげなものがシンダルに関係するはずがない。
そもそも意味なんてもとからないのかもしれない。
そうだ、それに違いない。と考えたゲドはミミズがのたくったような
文字の存在を無視することにした。

問題は「絵」だ。
手がかりになりそうにもないが、残されたものが古い紙しか無いため
その「絵」が関係してくるのは間違いないことなのだろう。

「しかし・・・・訳がわからん。」


暖かな陽射しが窓を通しゲドの背中を心地よく包み込む。
机に広げられた古い地図もどきを目の前に、眉間に皺を寄せ
考え込むゲドの意識がどんどん遠のいていくのも自然なこと。
そして数分後には静かな寝息をたてながら眠るゲドの姿。






「ゲ〜ド〜〜〜」

遠くから己を呼ぶ声が聞こえる。意識が覚醒してゆくとの同時に
呼ぶ声も段々大きくなってゆく。誰の声なのかはっきり意識したとき
ガバッと状態をおこした顔面を蒼白にしたゲドの姿があった。

「ちゃんと見つけてくれた?たからもの。」

語尾を妙に強調して話すライズの言葉が、
ズクズクと心臓を刺激する。
何も答えられず、おたおたしているゲドを後目に、にっこりと
笑みを浮かべる英雄その人はゆっくりと行動を開始しました。

「宝がみつからなかったのか。・・じゃぁ、仕方ないな。」

ガシッと肩を掴むライズを見ながら必死に抵抗をする。

「ま、待て。あれは地図ではないだろう!?
地図ではないものから宝を見つける事なんて出来ない!!!」

きっぱり言い切ると、ライズはその言葉をあっさり肯定した。

「あぁ、そうさ。あんなもの地図でもなんでも無い。」

言い切ったライズを目の前に、呆気にとられるゲドの姿もつかの間
それまで以上に激しく抵抗をはじめるが、それも少し遅かったようだ。
押さえつけるライズの片手がゲドの弱いところを刺激すると
途端に体から力が抜け、後は笑顔の英雄のなすがまま。


『はいるな!』


その張り紙の扉向こうからは、ゲドの悲鳴だけがこだまする。
英雄ライズの報復を恐れて哀れなゲドを助けるものは、
誰一人としていないのでありました。


  09.05.04

5年程前ですか、、、携帯HPを細々と作っておりましてね、キリ番ととっていただいた方への 捧げものとして書いたブツでございますよ。今更うpするのもどうかと思ったのですが 5年も前ですから・・・う〜んと思いつつ更新しちゃいましたヨ。 今回うpするにあたり、最初に書いたものに一部加筆修正を加えております。

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