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感情 |
「原さん、さようなら。皆さんもお元気で……」 広い海へ小さな舟が静かに出てゆく。悲しい別れなのにこんなにも穏やかな風がふき、抜けるような青空が広がっている。心に残るのはやりきれない思い。何故、五島が島を出てゆかねばいけないのか。本当は何故だか分かってる筈なのに認めたくない。そんな事はあってはいけないのだと……表面上は冷静さを装いながら内面は狂おしいまでの感情に翻弄されていた。以前、似たような感情を感じた事がある。この感情は間違えようもないあの…… 五島が本土から島へ戻ってきてから数カ月たった。元より戻ろうと考えていた五島ではあったが、あの日、手術成功の記者会見があった日、島から原と息子の剛洋が目の前に姿をみせ言われた一言で少しもやもやしていたものが氷解し素直な気持ちになれた。その事が一番の島に戻ろうとしたきっかけになったのだと感じていたのだ。 しかし…… 今は本当にそれで良かったのかと後悔もしている五島ではあった。 「原さん、いつまでここにいるんですか?仕事しないと……」 島へ戻りそれまでと同じような生活に戻った五島ではあるが一つ、以前とは違っている事があった。 原の存在である。五島が思うに時間が許す限り診療所に入り浸っている感じがする。それは最初気のせいかと思っていたのだが今では誰の目にも明らかで、そのやりとりが診療所に診察をして貰おうと来ている人々の中でここ最近の話しの種になっていた。 そんな事など話しの中心になっている本人は知る由もなく相変わらず不毛なやり取りを繰り返している。 「仕事なんて後だ、俺はお前の返事が聞きたい……」 返された原の言葉に五島は一つ溜息をつき、 「それはもう話したはずでしょう?答えたはずです。」 話しの確信をつく内容は伏せられたまま2人の言い合いは続く。周りの長閑な空気に連動されたかのように口調はあくまでも静かだ。遠くから見れば親し気に世間話をしているように見える事だろう。実際はそうでは ないのだけれど。 「コトー先生います?」 五島と原のやり取りは診療所の入り口から聞こえてきた星野彩佳の声で一時休戦となる。 「彩佳さん、どうしたの?」 聞いて下さいと話しを始めながら五島のもとへ歩みを進める彩佳と入れ違いになるように、診察室から原が出てくる 「明日またくる…」 隣を通り過ぎた表情を見せない原を見送り、部屋の奥の椅子に座る五島に視線を向けると困惑気味の目をした顔と対面する事になった。その表情で今まで何があったのか即座に理解した彩佳は一言、 「先生、頑張って下さいね。」 そう言い、自分の話したかった事を話しはじめたのであった。五島にしてみれば何を頑張るのかそれに対してもまた困惑をかくせない。彩佳の言ったことも含め、今現在彼女が話している事を話し半分に原のいった事を真剣に考えて始めていた。 「お父さん、またコトー先生のところへ行ってたの?」 既に、学校から帰ってきた剛洋が家の正面立っていた。以前までと逆の様子である。帰ってきた息子である剛洋をむかえていた筈の剛利が今では迎えられる側になっている、幾分不機嫌な息子に……。 「いつまで続けるの?」 剛洋の控えめな質問にお前には関係ないの一言ですませ、さっさと家の中へ入って行く父をみて今日も溜息がでる息子であった。 翌日…今日も昨日と同じく診療所には原の姿がみえた。何時もの言い合いが始まるのかと妙な期待をしている診察をして貰おうとしている人々は、今日は何だかいつもと様子が違う事を感じる事になった。いつもならそれなりに長く居座る彼が今日に限って5分も経たない間に診療所を出たからだ。どうしてなのか、まさか五島に聞く訳にもいかず診療所に来ている人々は自らの好奇心を、その内分かるだろうという気持ちで押さえその日の楽しみを後にとっておくことに自然と決まったのでした。 机の上には白い封筒が一つ、綺麗に鋏で封を切ってある。一度中身を読んだのではあるがもう一度確認の為中身を読む事にした。 『五島、お前に話がある。今夜2人だけで会えないか』 原が渡した手紙の内容は直接的で簡潔だ。わざわざ手紙にしなくても良いと思われる内容。こんな短い言葉なら直接口に出して言えば良いものの、今日いつものように診療所に来た時にはそれらしい事は一つも言わずただ、手に持ってきた手紙を五島に渡し、読んでくれと……他の事は一切言わずそのまま診療所を後にしていた。 手紙を持ってきた時の事を思い出しながらとても短い文を読み返した。この手紙にどんな思いが込められているのか、少なからずとも、あの時言われた事と関係があるのだろうと予測をし、一人まだ暖かい夜の海岸へ向かう事にした。 向かった先には既に原が来ており遠く海の向こうを見ていた彼は五島の気配に気付いたのかゆっくりと振り向きこっちにくるように指図をする。 「原さん……」 原の名前を読んでみたはいいもののその後に続く言葉が見つからない。暫く無言の時間が過ぎる。 「五島……お前が偉い議員か何かの手術をしに本土へ渡った時…俺はもう戻ってこないじゃないかとおもった。」 唐突に、原が言葉を発する。 「でも、こうして戻ってきました……」 夜の暗闇に海の波の音だけが静かにこだまする。まるで2人の話の後ろにかかる音楽のように。 「その時に始めて感じたんだ、今までお前に対して感じていた本当の気持ちを……」 次に続けるべき言葉を言おうか言わぬべきか迷い、目の前の五島から目線を反らす。 再び目線が正面に戻り言葉を選ぶかのように暫く思案した後、一息吸い込んで一気に思いを胸の内から外へ吐き出した。 「お前が、好きだ」 島に戻る舟の中で一度は聞いた言葉だった五島ではあるが、改めて確りと聞くと何だか照れくさいようなおかしな気持ちを感じる。最初聞いた時は冗談なのではないかと感じていた。自分をからかっているのだと。でも本当は違っていたのだ、冗談ではなく本当の事なんだと。 「原さん、あの時の事を覚えていますか」 原の告白に対して答えた五島の言葉は全く見当違いのことで、何を言っているんだと口を開きかけた原を無視する形で、次の言葉を続ける。 「剛洋くんと一緒に来てくれましたよね、戻ってこいっていってくれました。僕は…戻ろうとは思っていましたけど、最後のきっかけを探していました。」 それがどうしたのだと言いたげな顔をした原に五島は答えを、心からの正直な答えを告げた。 「原さんがあの言葉を言ってくれたから僕は戻ってこれたのだと思っています。」 とても嬉しかったです、と視線を外し原に向けて言葉を放つ。 「五島…それは……」 言葉の正確な意味を決めかね、自分の都合のよいように解釈して良いものか思案しながら口を開くが五島の言葉によってそうそう自分の都合の良いようには行かないものなのだと知ることになった。 「原さん、原さんの気持ちは嬉しいです。でも今は、原さんが感じている感情と同じものは僕の中には無いよような気がします」 「これからなら期待してもいいのか?」 何を?とかえした五島は自分がさっき言った言葉の中に『今は』という単語を使ったのを思い出し、それは違うと反論しようと口を開こうとした。しかし、目の前に不自然にうつる原の顔をみたと同時に暖かいものが触れるのを感じた。 「……原さん?」 その時間は短く何が起こったのか即座には理解出来なかった五島は何をしたのかと原に聞こうとした。だが、原の名前を呼んだところで漸く自分がなにをされたのか理解し、徐々に顔が赤く染まってゆくのを感じていた。 「好きだ」 原の言葉はいつだって直接的だ。言葉の意味が即座に理解出来るからこそ返答に困る。 「分かりません、分からないんです……」 同じ感情は持っていないのだと決める事は簡単。でも、決めてからも本当にそれで良かったのかと考えている自分がいる。だから『今は』という言葉が出たのだろうと、分からないと言う言葉を発しながら考えていた。 「分からなくても良い、俺がお前の事が好きだという事は変わらない」 「僕は……」 ずっと待っているという原の言葉は五島に焦らなくても良いのだと思わせる。同じ感情を原に対して感じ始めるのも時間の問題なのかもしれないと思い静かに波打つ暗い海に目をむけた。 |
書き終わりました、コトーですよ。テレビをみて萌えを感じ書こうと……きっとこの続きの感じでいくつか書いてゆくのだと思います。原×コトーの話とか書いている人っているのでしょうかね…自分の探し方が下手なのか巡り逢いがなく…自給自足なのでしょうか(涙) |
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