蘇る記憶

   

『あいつは喰えねぇ奴だからさ』


そう言ったツメの言葉には何か別な意味も含まれているようで、
トオボエは何かそわそわした気分になった。
その時はツメの言葉になんだか納得した気持ちになったのだが、
時間が経つにつれてトオボエの中でどういう意味なんだろう?と疑問が頭をもたげてきて
何をするにしても、どうしてなんだろう?という考えが頭の中から離れない。
ただでさえのろまだとか言われているのに、
その事を考えているため、いつも以上に皆から早く来い、だの
何をやってるんだ?など言われるはめになった。

これは本人に直接聞いて心のつっかえをとらないと駄目だと考えたトオボエは
一人離れて地面に横になるツメに近付き声をだした。

「ねぇ、ツメは何で、さっきあの言葉をいったの?」

「…………。」

トオボエの言葉にツメは無反応だ。

「ねぇ、ツメ、聞いてる?」

「聞いてねぇよ……。」

漸く返ってきた言葉はその返事ではなく、答える気なんてさらさらないという感じだ。

「………聞こえてるんじゃないか…ねぇ、ツメってば。」

何度もしつこくいうトオボエの言葉に嫌気がさしたのか、
漸く答えらしい答えを声にだした。

「うるせぇな……とくに意味なんてねぇよ。」

とはいってもちゃんとした答えではなかったが……。

「意味がないのなら、何でそんな事いったのさ?」

「それは……お前には関係ないだろ!」



(意味なんてない……でも、あるとすれば、それは……)

ツメの頭の中に数日前の事が蘇る。不本意すぎるあの事が……






「ツメ……。」

あの狭いドームから楽園を目指して旅立ってから何度目かの夜、
いつものごとく一人少し離れて眠っていたツメを呼ぶものがあった。
それ程大きくない声ではあるが、夢の中を彷徨っていたツメを覚醒させるには十分だった。

「………?」

まだ、重い瞼をゆっくり開くと、上から見下ろしている瞳と瞳がぶつかる。
見下ろされるという事に意味もなく苛つきを感じ、口調もぶっきらぼうになる。
奴、キバの言葉は真直ぐでいつでも確信に満ちている。
そんな言葉や態度を近くで感じると、いつだって気分は最悪になる。

「何だ…?何か用かよ。」

暫し、無言のキバはゆっくり上空を見上げる。

「今夜は満月だ」

いつも唐突に話し出すキバの言葉は一度では良く分からず、暫し考える時間を欲する。
今回も、一体何が言いたいのか良く分からずに、それがどうしたと言葉を返した。

「分からないのか……?」

分からないから聞いているんだろう?と心内でいら立ちを感じ舌打ちをする。

「俺が、分かると思うのか?」

ツメの言葉は至極まともで、理解出来ないと言うのは当たり前だ。

「…そうは思わない…、いや、あるいはと思っていた。」

増々、良く分からないキバの言葉にイライラはついに、ピークに達した。

「何でもいい、早く俺の目の前から消えろ。苛つくんだよ。」

そんな言葉を関係ないと言わんばかりに、空を仰いでいた視線をツメへと戻し、
キバは同じく無言になる。立ち去る気配は全くない。

それならと、ツメは考える。全く不本意ではあるが、
自分が奴から遠ざかる事によって、心の平穏を手に入れようと思ったのだ。

「どけよ…。」

立ち上がったツメが遠ざかるのを防ぐようにキバが前に立ちはだかる。
異様な威圧感を感じる。

「体の中から沸き上がる感じ…お前は感じないのか?」

と、そのキバの言葉で理解する、満月で気分が昂っていることを。

「あぁ……感じるぜ?今すぐ、お前を打ちのめしてやりたいと思うぐらいにはなっ!!」

言葉が牙をむくと同時に攻撃体勢を取ったツメは、目の前に立つキバへ攻撃を仕掛けた。
そんなツメの行動を見越していたのか、キバはあっさり攻撃を避けると、
逆にツメへと覆いかぶさる。
音をたてるものといえば、二人から発せられる荒い息遣いだけ。


姑くの後、キバの意外な行動により状況は一変する。

荒い息遣いはツメとキバのとでは意味が違ってきていた。
覆いかぶさる体勢がそうさせているのか、
キバは明かに欲情している。
下から睨む体勢にいたツメは漸くその変化に気付く。

「キバっ、お前なにやってんだ!?」

「お前に欲情している。分かるだろう?今夜は満月だ。」

何となく予想はしていたのだ。満月の日は気分が昂る。
だが、その昂りが自分に向けられるとは思わなかったツメは、
先程の勢いはどこへやら、ただ狼狽えるだけだ。

「どけよっ!!」

激しくもがくツメの脇腹をスッと撫でてやれば、途端に抵抗が静かになる。

「…ぁ……っ?」

無意識にもれた自分のものとは思えない声に、また静まっていた抵抗を始める。

「俺はツメに欲情してるんだ。退くはずがないだろう?」




普段は俺様な、大きい態度を取っているツメが自分の下で、
良い声を出して喘いでいるのを見るのはクルものがある。
あのドームで始めてツメにあった時から感じるものがあった。
けれど、その正体には今の今まで気付く事が出来なかった。

「や、めろよ……」

弱々しく紡がれる口調とは裏腹に、視線はまだ力を持っていて…
それが相手を煽る事に成ると思いもしないツメは、
視線だけの抵抗を止める事はしない。


そんな、ただ欲望を静めるだけかのように思える行為は、
互いが欲望を吐き出すまで続けられた。







ツ…メ……


「ツメってば!!」

数日前の記憶を思い出していたツメはトオボエの言葉で現実に引き戻される。

「ツメ、どうしたの?突然黙ったかと思えば、今度は何だか顔が赤いよ?」

熱でもあるの?というトオボエの言葉に、まさか本当の事など言える筈も無く……
そうこうしている内に、元凶であるキバが姿をみせる。

「何話してるんだ?」

「キバ…あのさ、さっきの…ツメがいった言葉の意味を聞いていたんだけど…。」

「お、おいっ」

流石に、本当の事は言わないだろうと思っていたツメは見事に予想を裏切られた。
そういえば、こういう奴だったと自分の事をお構いなしに
話しだす二人を見ながら、どうしようもないなと半ば諦め気分で聞いていた。

ふと、話がとぎれたとき、ぼそっとキバが自分に向かって囁くのが聞こえた。



"あれは満月の所為だけでは…ないから…" と

それはどういう意味なのかと訪ねる前に、かの人物は既に二人に背を向けていた。
そして後で確り意味を聞いてやろうとかたく誓いながら、
ツメはまた地面にごろりと横になる。


何も納得出来ていないものが約一名……
トオボエのモヤモヤが解消されるのは随分先の事になりそうだ。

   
04.02.19

終わってみれば、全くヒゲが登場しておりません。何だか、そこが心残りかもしれないです。
そして、設定が強引なのは気にしないでいただければと……
あぁ…乱れるツメがみたい…(爆)

novel top