氷の使い人 |
その人物の噂を聞いたのは、ユージーンとマオが二人、 バルカを出て旅をするようになってから数カ月たったころだった。 船で港に降り立った時、旅装束の男が土地のものに 面白おかしく話しているのがふと耳にはいったのだ。 自分の大切な人を碧の冷たい氷に閉じ込めた男がいるという、そんな話。 不思議と心惹かれるものを感じた二人はお互いに顔を見合わせ頷きあった。 「ユージーン、あの話ってやっぱりフォルスの暴走だよね。」 「あぁ、まず間違いないだろう。」 フォルスの暴走が起こると、良くも悪くもその人物の身近にいるものが 一番の被害を被ることとなる。今回噂になっている人物もそれは例外ではないようだ。 氷のフォルスを使うというその人物の能力は一体どれほどのものなのか。 二人は降り立った港町を後に氷像と化した大切な人と一緒にいるという人物が住む スールズの集落に足を向けることにした。 スールズはカレギアの西大陸最北の村だ。港町からその村までは随分の距離がある。 海岸から内陸部を通り雪深い山々を越え漸く訪れることの出来る閉ざされた場所。 そんな場所で起きた出来事が離れた港町まで噂になっているというのは 世程の事があるのだろう。実際、向かう途中立ち寄った町や村などで、 等しくその噂を耳にすることが出来た。噂はスールズに近付くにつれて、 より詳しく鮮明な情報となっていった。ラドラスの落日が起こったその年、 氷の男は幼馴染みの娘を氷付けにしてしまった。 その時から片時も氷像から離れることはないという。 一年間も同じ場所で、人の話に耳を傾けること無く同じ人物の事を思い続けているのだ。 「あれが、ラルレン大橋だ。そこを越えればすぐにスールズにつく。」 ケケット街道を進む二人の目に遠く、橋が見えるようになってきた。 この場所は初めてであろうマオの為にユージーンは説明を欠かさない。 それはマオが初めてだ、という事だけではなく元からそういう気質なのだろう。 ヒューマとガジュマという珍しいでこぼこコンビは 年の離れた友人のように旅を続けてきた。そこに加わるかもしれない まだ見ぬ人物に思いを馳せながら、彼等は目の前に迫ったラルレン大橋を越えた。 「うわぁ、ここがスールズか〜何もないヨ。」 「マオ、いくら何でも言い過ぎだぞ。」 正直な感想をもらすマオにユージーンが突っ込みをいれる。 「でもさ、こんな静かな場所でフォルスの暴走が起きたなんて信じられないよ。 ユージーンもそう思わない?」 スールズの村をぶらぶら歩きながら、クルクル変わる表情で話し掛けるマオに相槌を打つ。 「あぁ、そうだな。だが、ラドラスの落日後どんな場所でも フォルス能力を持つものが現れだした。それは事実だ。バイラスが増えたこともな。」 小さな村の目的地につくのは簡単なもので、話をしながら歩いているとあっという間だ。 村についた時、聞いた集会場はすぐに目の前に建っていた。 数メートル離れた場所にまで冷たい冷気が流れ出しているような静かな姿だ。 「……いよいよだネ。開けるよ……」 少し緊張した面持ちのマオが集会場の扉をあけると、 外まで流れ出ていた冷気が溢れ出てきた。 暗く閉ざされた室内の正面に剣を抱えた男が静かに座り、 氷付けだという幼馴染みの少女を背中に守っている姿が二人の目の前にはいってきた。 「ヴェイグ・リュングベルだね。」 「……誰だ?」 目にうつった人物の名前を呼ぶと、伏せられていた顔がゆっくりと正面に向けられ 固く閉ざされた唇からは低音の言葉が流れてきた。 暗く淀んだ感情と向けられる敵意、何よりもその銀の髪と対比するような青の瞳に 一瞬息を飲んだマオは感じた感情を押し込め、 一歩一歩腰をおろす彼、ヴェイグに近付く。 隣にいるユージーンもゆっくりと近付くのを感じる。 「近付くなッ!」 言葉と共に、マオとユージーンの前に氷の柱が表れる。 「そんなに警戒しないでよ。僕達、君のような 強いフォルス能力を持つ人物を探して旅をしてきたんだ。」 なおも近付く二人に牽制の氷柱を出現させると、 その場でスクッと立ち上がりヴェイグは歓迎出来かねる来訪者を見据えた。 「…お前の気持も分る。だが、俺達の話を聞いて欲しい。」 「話なんて…聞く必要はない。出ていってくれ。」 あくまでも拒絶の態度を表すヴェイグにマオが言葉をかける。 聞くまいとしているヴェイグの耳に氷付けの幼馴染み、 クレアの名前が耳にはいってきて、それまでとは明らかに表情を変えた。 「そこの彼女…クレアさんだっけ?僕なら氷の中から出してあげることが出来るよ。」 「クレアをッ!?」 信じられない、そんなことお前になんか出来るはずがないとヴェイグは思う。 この1年間、どんなことを試しても氷が解けることはなかったのだ。 出来ることなら自分の手で救い出したい。他人の手を借りるなんて考えられない。 閉ざされた心は容易に開かれることはないのだ。 「見て、ヴェイグ。」 マオの目の前の氷柱がみるみるうちに解けてゆく。 赤い炎に包まれ跡形もなく消えてしまった。 「…!!!」 「お前のフォルス能力は氷だ。このマオのフォルスは相反する炎。 マオなら氷の中の娘さんを助け出すことが出来るだろう。」 |
05.01.29 |
中途半端ですが、取りあえずアップしてみましたリバース話し。 激しく続くものだと思われます。今は健全話しですが徐々にあのカプ話しに〜 氷のお兄さんステキだ〜 |
novel top |