究極の食料

   

「ねぇ、おなか空かない?」

一体、何度目の言葉になるのか、
チープ−は、目の前でぐったりとしている3人に話しかけた。
ラズリルから追放され、海上を漂流し始めてから早3日。
僅かに持ってきていた食料を少しずつ食べ繋いできたが、残りはわずかである。
もうそろそろ上陸できる島や、船などをみつけないことには
このまま海上で命を失ってしまうだろう。

「空かないよ……。」

ルムは言葉を返すが実際のところ、かなり空いている。
誰にも知られないように気をつけてはいるが、何度もお腹の音が鳴っているのがわかる。

「そうか?……オレはかなり減ってるな。」

明らかに、嘘だろうと思える言葉を出すルムに、タルが横から言葉をはさみ、

「私も賛成…。」

ジュエルも同じくチープ−に賛同する。
3人の意見が一致したところで、ただ一人お腹が空いていないという、ルムの方を見やる。
無言の視線が、痛い……。

「わ、わかったよ。お腹が空いていないって嘘。本当はさっきから我慢していたんだ。
でも、食べる訳にはいかないでしょ?もう、残りは少ないんだから。」

「そうだけど〜。」

至極真っ当なルムに対して、チープーは諦めきれないといった反応をかえす。
ブーイングが聞こえてきそうだ。

「ルム、そうは言うけどよ、
ここで食べようが食べまいが結局は同じ事だと思わないか?
どっちにしろ、島か船をみつけない事には飢死にしてしまうんだから。」

早いか、遅いか…たったそれだけの違い。
だからといって、すぐに食べてしまおうとは言えない。
"お腹が空いて我慢出来ないんだ"という理由だけではそう言えないのだ。
もっと別の、違った理由がなければ……。

唸りながら、理由を考えていると後ろからガサガサ音が鳴り出す。
嫌〜な予感を覚えながら後ろを振り向いたルムの目には、
案の定、食料を丸く輪になって囲み勢い良く口に運ぶ3人の姿が目にはいってきた。
特にチープ−の勢いは尋常じゃない。包み紙でさえ食べてしまう勢いだ。

プチっと頭の中で何かが切れた音が聞こえた。

「……何食べてるの…皆……。」

恐ろしい殺気と共に聞こえてきたのは地を這うような低音。
物凄い勢いで動いていた手をピタリと止め3人はクルリと声の発信源に視線を向ける。
いつものルムからは想像つかない恐ろしさだ。

「それ、勿論、くれるよねぇ。」

とか言いながら既に食べているルム、3人に負けず劣らずの食べっぷりをみせている。


そして……残り僅かだった食料も皆の胃に消えてしまい船の上に残ったものは4人だけ。
漂うのは微妙な空気。ぽつりと、ルムが口を開く。

「食料を食べてしまったことは…もう、どうでもいいよ。
結局は僕も食べてしまったんだから。でも……。」

一旦、言葉を区切り視線をクリッとした瞳をもつチープ−にむけると、溜息をひとつ。

「でも…、しょうがないよね。食料が無くなったんだから。」

「何?なんの事?」

何故視線がかち合うのか理解出来ていないチープ−は焦るのみ。
二人の様子を見ていたタルとジュエルは何となく嫌な予感がした。

「ごめん、チープー…僕らの食料になって。」

「えぇッ!!?」

3人の言葉がはもる。そして、頭のなかでは様々な事がまわりはじめる。

"危険だよ、ここにいちゃいけない…早く逃げないと"

"この場合、どうすりゃいいんだ!?チープ−、食っちゃいけないし…
でも、ルムに逆らったら自分の命が……"

"チープ−、か…案外美味しいかもしれない…
じゃ、なくて、さ、殺人!?それとも、ネコボルト殺し?いけない事だけど……"


瞬時に頭の中を巡った事を皆が実行に移すと、小さい船の中は一瞬のうちに戦場とかし、
それは船に穴が空いてもおかしく無い程。
逃げるはチープ−だけ、後の3人は捕獲にまわる。
最初、良心が咎めていたタルとジュエルの二人も時間がたつにつれ、
ルムと、そう変わらない表情になり……



そして、ついにその瞬間が訪れた。





木の船の上にそれと分る赤いものが、所々シミをつくっている。
漂う鉄臭い匂いは気にならないのか、
3人は満足げな顔で仰向けに寝転がり抜けるような青空を見上げていた。
思いは様々だが、この時3人は確かに強い絆で結ばれたような気がしていた。


  05.01.27

わ〜い、いつも通り生き物食べる話ですよ。やっぱり好きみたいです。食べる話が。

novel top