待人

   
 カレリア、人の生活臭がただよう活気に満ちた街、いつもは渇いたその地に珍しく雨がふっている。店を出していた人々は品物がぬれないようにシートをかぶせたり、早々に店をたたむ者もいた。最初小振りだった雨は時間が経過するとともに勢いをまして前が見えないほどの豪雨となっていた。ちらほらといた人々は家にこもり、今は人一人としていない状態になっていた。
 そんなカレリアの街を歩く一団、"ハルモニア神聖国南部辺境警備隊第十二小隊"そう呼ばれる彼等は仕事の報告をするため本部に向かっていた。
 歩く彼等を、特に長身で隻眼の男を見ているものがいた。口には微笑みをうかべたその男は外見の爽やかさとは裏腹に何か影のある雰囲気を持っていた。

「あの人………ですか」

 以前から名前だけは知っていた"ゲド……と、彼の凄腕傭兵としての人々のうわさも聞いていた。マイクは窓際からゲドという名をもつ隻眼の男を新しい何かを見つけたかのよう食い入るように見つめていた。


「……?」

「大将、どうしたんですか?」

 ゲドはふいに立ち止まった。その事によって後ろを歩いていた十二小隊の面々は自然足をとめる事となる。

「…いや、なんでもない」

 エースの言葉に短く簡潔な返事をかえし、ゲドは再び本部へ向けて歩き出した。


「気付きましたか、さすが…ですね」

 誰にいうでもなく呟きマイクは目的を果たしたかのように窓際から室内へ身をうつした。



 本部への報告を終えいつもの宿におちついたメンバーはそれぞれの時間を過ごしていた。酒場ではクイーンとジョーカーが酒を浴びるように飲み、エースが酒を飲むのをやめろと二人に叫んでいる。他の客にめいわくだと思っているゲドは、しかし周りもうるさいから気にする事もないだろうと思い出口の方へと歩みを進めた。その場にゲドがまだいると思っているエースはゲドに助けを求めた。

「大将もなんとか言ってくださいよー」

 そう言葉を発した時にはもう酒場にゲドの姿はなく、後に残されたのは今だ酒を飲み続けるクイーンとジョーカー、呆然としているエースの3人だった。

 酒場を出たゲドは自分達にあてがわれた部屋へと戻っていた。薄暗い廊下を歩き部屋の扉をあけるとジャックが一人隅の方で何をするでもなく佇んでいた。外にはまだ雨が激しく振り続けており、たいがいは木の上にいたりするジャックも今日ばかりは部屋にこもるしかないようだ。少し見なれない光景に珍しさを感じながらゲドは彼のもとへ歩みを進めた。

「………」

「………」

 二人は無言である。元から無口である彼等には会話らしいものは存在しないと言っても良いだろう。ただし他の人からみてのことだが。必要な事しか話さない彼等だがその二人の間には確かに会話は成立していた。 v
「隊長…今朝のこと…」

「…?」

 明かりもつけず雨模様の外をみながらジャックはポツポツと話しはじめた。

「誰か…見てた…」

「ああ……」

 相変わらず主語のない会話である。それに加え大きな声ではないので雨の音に消えて無くなってしまいそうだ。

「気にする事でもないだろう」

 そういったゲドは部屋の明かりをつけた。別の世界のようだった空間はとたんに現実味をおび、日常だと思っている世界に変わった。ジャックはまだ何かを話そうとしていたが部屋が明るくなる瞬間に見せたゲドの表情を見て言葉を飲み込んだ。と、外が騒がしくなる、他の連中が戻ってきたのだろう。今日は宿が混んでいて部屋の空きがなく必然と皆一緒の部屋にとまることになっていた。



「雨、やまないようですね」

 部屋から再び窓際に戻ったマイクはいっこうにやむ気配のない雨を見つめていたが、その頭の中には今見ている光景は入ってこず数時間前に見た隻眼の男、ゲドの姿がちらついていた。確かに地に足をつけて歩いているのに何故か存在が希薄なその男はマイクの興味をひいた。

「あの人は、何を……」

 目の前にいない男の事を思いながらぽつりと一言、普段のマイクを知る者からは想像もつかない声音だった。マイクという男自身良く知るものなど実際はいないようなものだが。



 ゲドは、皆が寝静まったのを見計らって部屋を出暫く使用されていないだろう物置きに身を寄せた。暗いその空間でゲドの右手が薄く光を放ち暗闇を幻想的な空間にかえた。右手を胸の高さにあげ視線を真の紋章が宿った手にやる、そうやって確認するのだ。真の紋章が宿った経緯、50年前のこと、現在のこと……。特別な儀式のような光景は誰にも邪魔される事なく続けられた。



 一夜あけた次の日の朝は昨日の雨が嘘のように晴れ渡っていた。雨があがったのを真っ先に見つけたエースは朝一番の大声を出す。

「晴れだぁー!!」

 その声で目覚めたジョーカーは起きるなりエースと口争いをはじめだした。そこにジャックの姿はみえない。ジャックも同じくエースの大声で目を覚ますことになったのだが、ジョーカーとエースの口争いがはじまる前に部屋を出ていたのだ。

 と、エースの目にゲドの姿がうつった。さんざんうるさくしたのに一向に起きる気配を見せず眠り続けている彼らの隊長。昨夜ゲドが十分な睡眠をとっていない事を皆知る由もなく、各々で解釈をする事になったのだが結局、同じ結論におさまったのだった。

"そのまま寝かせてやろう"と…

 結論をだしたからの行動は早く、数秒の後には部屋の中は眠るゲド一人になった。開け放たれた窓からは活気に満ちた声が響き、晴れた空には眩しく輝く太陽が暑い陽射しをカレリアの街にそそいでいた。

 結局ゲドが目を覚ましたのは昼近くなってからだった。階段を下り酒場となっている一階に行くと小隊のメンバーが集まっており、ゲドは彼等の側に歩み寄る。

「今日は朝早くに発つ予定だったな……どうやら寝過ごしたようだ」

「そうだねぇ、ゲドが寝過ごすの初めてじゃないのかい?」

 幾分おどけた口調でクイーンが言い、他のメンバーもそうだと頷く。

「わしらはその間ゆっくり出来たから気にしてないがのぅ」

「大将、今日はこれからどうしますかね?」

 エースの言葉に言わんとしていたことを話しはじめた。昨日の報告のさいに新たな指令を受けたこと、その内容。朝に発つ予定だったのを今からに変更すること。ゲドがそう言うであろうことを予想していたのであろう彼らの旅の支度は、すでにととのっていた。



 カレリアの街を出てゆくゲドら十二小隊を昨日と同じく窓から見ていたマイクはひとり思っていた。彼が欲しい……と、そして一つの賭けをすることにした。自分がカレリアにいる間に彼が自ら話しかけてこなかったら諦めよう、しかし話しかけてきた時にはどんな手を使ってでも自分のものにしよう。そう決め満足そうな笑みをうかべたマイクは隻眼の彼がよく訪れるであろうカレリアの街で期限が訪れるその日まで待ち続けるのだった。

   

何だかとても中途半端な感じで終わってしまいました。マイクとゲドと書いておきながら十二小隊の皆さんかなりでばっております。しかも、マイクの性格が全然違います。自分で思います……これ、マイクじゃないよ(涙)

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