なぐさめ

   

ウォォォ……

低いうなり声がする。
夜、眠るたび、目を閉じるたびにその音が聞こえる。
時折、かん高い悲鳴のような音も混ざり
聞くものの精神を削り取ってゆく。

罰の紋章、左手に宿ったその紋章が時折
とてつも無く嫌になる。
己の命を削り取り、周りの親しきものに宿る。
意志をもったそれは………。




「……ッ、また…だ。」

何度繰り替えされただろうか?
夢に追われ汗ばんだ額を中心に腕を組み、ぽつりと呟く。
揺れる船内、与えられた一室に荒い息が静かに響く。

"お前はこの船の船長なんだ、しっかりしろっ"

自分を叱咤してみても、乱れた心はそう簡単におさまる事はなく
言い聞かせた言葉で更にプレッシャーを感じ、繰り返すは同じこと。
暗く揺れる室内がそれを増長しているのかもしれない。
眠れる筈がない。

「くそっ!!」

紋章が宿った忌わしき腕を壁に向け振り上げるが、叩き付ける事はせず
そのまま元の位置へ戻す。乱れる心を無理矢理落ち着かせ、
軋むベッドから唯一の扉へと足を向けた。




……ルム?
別にこれと言って用事は無いのだが、
ルムの部屋の近くを通り過ぎようとしてたスノウはその部屋から
苦しげな声が聞こえたのに驚いて、暫し立ちすくんだ。
こんな声は長い間近くにいるが、一度だって聞いた事がない。
どうしたのだろう?と、扉に向かいノブに手をかけようとしたとき、
逆に扉が開かれ中から出てきたルムとはち合わせする。

「ス、スノウ!?」

「ルム……?」

妙な空気が流れる。
夜もふけたこんな時間に部屋の前に立っていたスノウもおかしいし、
部屋から出ようとしていたルムもおかしい。
片手には上着も持っているのだから、なおさらだ。明らかに甲板に出るのだと知らせている。

「甲板にいくのか?」

問いかけに軽く頷いたルムはそのままスノウの横を通りすぎ、
甲板へ繋がるサロン2階の扉へ歩き出した。

「ルム、…。僕も、一緒にいっていいかい?」

ぴたりと足をとめたルムに、少し小走りで近付いた。

「……どうして?…スノウは何で一緒にいこうと思ったの?」

そんな言葉を返されるとは思っていなかったスノウは、返答に困る。
どうしてって言われても……。

「…そうしないと駄目だと、思ったからかな。これじゃ、答えになってない?」

「……そんなことない。…ごめん。」

突然黙ってしまったルムを引っ張るように、今度はスノウが前にたって歩みをすすめる。






「う〜ん。」

海を流れる夜風が気持良い。
心に渦巻く嫌な気持を残らず吸い取ってくれるようだ。
そんなスノウの反応とは対象的に、ルムは夜風にあたりながら
増々、暗く沈んだ表情をしているように感じられた。

「どうしたの…ルム。」

言葉に反応するかのようにぎゅっと左手を握りしめるのが目の端にうつった。

「紋章?」

「ど、どうしてっ!?」

パッと顔をあげたその表情は今にも泣きそうで、
これまで一人で紋章の強大な力に堪えていたのだと知れた。

「ルムが、部屋から出てくる前、聞いてしまったんだ。苦しんでいる声を……。
こんな僕に言えるような事じゃないけど、一人で溜め込むのは、良く無いと思うよ。」

静かな波の音に、スノウの声が重なる。

「何の役にもたてない僕だけど、話を聞くぐらいなら出来るから。」

僕になんて話したくないかもしれないけれどね。
そういって、用は終わったと言わんばかりに数歩元の場所から離れると、
静かに空にきらめく星を見上げた。


「…そんなことない。ありがとう、スノウ。」

どんな事があっても、やっぱりスノウは自分にとって大切な存在なのだと、
落ち着く気持を感じながら思った。





あと数日で決戦の準備も整う。
この強大な紋章の力も使う事になるだろう。
先の事なんてどうなるか分かったものではない。でも、皆がいる、
スノウがいると思うと先の分らない未来でも、不思議と不安な気持が無くなった。
頑張ろう、そう心に言い聞かせスノウと同じく夜空を眺める。
満天の星々がそんな二人を照らし出す。
空の片隅にキラリと流れ星が光った気がした。


  04.09.14

勢いで、幻水4の小説書いてみました。やはり、主人公に転んだ自分。
そう簡単に好みが変わる事なんてありえないようです。

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