望むものと望まないもの |
暖かな部屋、食欲をさそうご馳走 二人を柔らかに照らすランプのひかり どれもが幸せの象徴のように思える。 こんな幸せがいつまでも…… いつまでも……… 目覚めはいつも通りいたって普通の朝。 カーテンの隙間からこぼれる光だけが、やけに眩しく感じた。 眩しさに目を歪めながらカーテンを開いてみれば辺り一面の銀世界、 太陽の光をうけて眩く輝いていた。 昨年とはまた違う姿をなんとも無しに眺めていると人が一人、佇んでいるのがみえた。 目をこらして見てみれば、それがヒューゴの姿だということが分かる。 「何故……?」 声をだして呟き、そして… あぁ、そうだったのかと思い当たる。一年前の今日、 ジョー軍曹がいなくなったのだと…… それには自分も大いに関係していて、どうしようもなかった事だとはいえ、 深い懺悔の念にかられたのを覚えている。ともすれば今でも思い出すくらいで… 長い間、生を歩んできたが、こんなことは一度たりともなかったのだ。 きっとエースだったからこそ、何の疑いもせず素直に受け取ることが出来たのだろう。 雪の中に佇んでいるヒューゴがくるりとこちらを向きゲドの姿を認めると、 にこっと笑った。 どんな思いで笑っているのだろうか? それを思うといたたまれない気持ちになる。 皆がうかれ楽しい日であろう今日が、こんなにも辛く悲しい日になろうとは ヒューゴも思っていなかっただろう。 「大将、何を見てるんです?」 物思いに耽っていたゲドはエースが入ってくるのに気付かなかったようだ。 「そんなしけた面してると、心まで腐っちまいますぜ?」 「そんな顔か…では、あいつはもっと酷い顔をしてるんだろうな…」 「あいつ……って誰です?」 目の前にいる自分よりも他の誰かの事を考えているゲドに 少し嫉妬を覚えながら疑問を口にした。 「…一年前の事だ、思い当たるだろう?」 それにはエースも関係していて…… よかれと思ってやっただろうということは痛い程分かった。 だから強く言えなかったのだ。 「……あのこと、ですかい?そりゃぁ、俺も悪いとは思ってますよ」 一息付き、再び口を開く。 「結果的にはヒューゴから、親も同然のジョー軍曹を奪った事になるんですから」 「分かっているなら、いいだろう?こんな顔していても」 どこか投げやりなゲドの言葉を聞き、相当思いつめているのだと感じた。 でも…… 「大将が、そんな顔してて何かが変わるんですかい?ヒューゴの気が晴れるとでも?」 「……俺には、大将の自己満足に思えるんですがね。」 はっきりと、確信をつく言葉を発するエースから自然と視線が外れる。 「…そうかもしれん。俺の体の中に消えたと言う事に変わりはないのだからな。」 沈黙が続く。 「もう一度、チャンスくれませんかね?」 沈黙をやぶったのはエース。だがゲドにはその言葉の意味が良くは理解出来なかった。 "チャンス"とは一体何の事をさしているのだろうかと……。 「今度は去年みたいな事にはしないですから。とっておきを用意しますぜ?」 そう言われてもすぐにはどう反応して良いものか分からない。 返す言葉を探しているうちに、エースから部屋の外へ追い出される事になった。 準備をしたいからだという理由で。 部屋から出されても、何もする事がない。仕方がないので城内を歩く事にした。 一人、何も考えずに歩いていれば周りの様子がいつも以上にはっきりと見える。 今日がクリスマスだから、というのもあるだろう。 皆が浮き足立っている。そこかしこに微笑ましい光景が目にとまる。 自分とは大違いだ。心は重く沈み、懺悔の思いが胸のうちにともる。 「ゲド、さん…?」 そんな思いで歩いていると後方から自分に向けて、声をかけられるのがわかった。 声から今、一番顔をあわせたくない人物のものだと分かる。 だが、ここで変に気を使えばよけいにヒューゴの悲しみを増長させるだろう。 「どうした…皆と一緒に準備はしないのか?」 今日はクリスマスパーティーをするのだという話が耳に入ってきていた。 それでこの言葉を選んだのだが。結果的にはどの言葉も変わりはなかったようで。 「軍曹がいないから…何だか、変な気分なんだ。去年の今頃は俺の傍に軍曹がいて…」 みるみるうちにヒューゴの表情が曇ってゆく。そしてポタリと涙の雫が頬を伝う。 「あれ…?変だな。ゲドさん、どうしてなんだろう……。俺、ちっとも悲しくないのに」 綺麗な雫はゲドの心を攻め苛む。返してくれと、近くにいた親しきものを返してくれと… 「すまなかった。」 自然とその言葉が口をついて出ていた。漸く本人を前にして言うことが出来た。だが… 「そんな言葉、言わないで下さい……」 拒絶を表す言葉。普段どんなに普通に接していようとも変わる事の出来ない思い。 一度やってしまった事は変わる事など出来ず、 忘れるように努力するか、逆に忘れないようにするしかない。 「もう、終わってしまった事だから…ゲドさん、気にしないで下さい。」 そんな風にいわれてしまえば、ゲドにはできることがなくなる。 「もう、こんな事が起きないように気をつけよう。」 ありきたりな言葉だが、こんな事しか言う事が出来ない。 自分が悪いのは十分承知しているのだから。 その言葉を最後にヒューゴとは分かれた。そして再び城内を歩き始めた。 ここなら準備ができるまでゆっくりする事が出来るだろうと思い、 二階の図書室へ足を向けた。 予測通り室内は静かで、人も数人しかいない。 準備が完了するであろう時間まで、適当に本を見繕って読んでいる事にした。 「…たいしょう、大将、起きて下さいよ。準備、出来ましたんで来て貰えますかい?」 エースを待つ間、眠ってしまったようだ。ゲドはエースの言葉で目を覚まし、 自らの部屋へ歩みを進めた。 「さぁ、どうぞ…」 最初に感じたのは暖かな空気、 テーブルには食欲をさそうご馳走の数々 それらを柔らかに照らすランプのひかり どれもが昨年より、印象強く見える。 テーブルにつきエースの姿を見てみると昨年とは違い乱れもなく、綺麗なものだ。 これなら安心だと思ったゲドはテーブルに並ぶ数々の料理に舌鼓をうつ。 「美味しいな…。このとり肉なんて大きい割に柔らかく食べやすい」 「へへっ、大将にそういって貰えて嬉しい限りで。」 テーブルを囲み、エースと二人で夜を過ごす。 柔らかなランプの光に照らされていると幸せに包まれているような気持ちになる。 この時ばかりは、感じていた深い懺悔の思いは消えていた。 「ところでエース、このとり肉はどこから仕入れたんだ?」 この幸せな気持ちがいつまでも続くものだと思っていた。 ゲドが、この問いかけをしなければ…… 「大将、気付いてるんじゃないですかい?今食べたのが何なのか。」 その言葉で、まさかと思う。今年こそはと思っていた。 昨年みたいな事にはならないであろうと。 「……ダック…、なのか?」 おそるおそる肯定されて欲しくない疑問を口にしてみれば、 「その通りなんですけどね、大将、一年前随分と気に入っていたようだったから。」 今年もダックにしたのだと…… こんな事があって良いものかと…考えるゲドは後悔の気持ちでいっぱいになった。 と、扉が控えめにノックされる。ゆっくりと開いてゆき見えるのは、純白の羽。 「エースさん、レット…知りませんか?エースさんと一緒に出かけていってから姿が見えないんですけど。」 一瞬エースの顔がニヤリとしたのは気のせいだろうか? 「いや、知らないな。あの後、散歩に行くとかいっていたような気は……。」 「おかしいな、お昼を食べようと話していたのに。散歩にいったのかな…?」 ありがとうと一言、言葉を残すとワイルダーは部屋を後にした。 見つかる筈もないレットを探して…… 「エース、今テーブルに並んでいるのは……レット、なのか?」 違うだろうという望みをかけて聞いたのだが、それはあり得ない事だったようだ。 「大将の言う通りでさぁ、料理のやりがいがありましたぜ?」 幸せとは何だろう? ゲドが望んでいたのは昨年とは違うクリスマス。 けして今みたいに、ダックを食べる事ではなかった筈だ。 一人で、いやエースと一緒でも良かったが、ゆっくりと過ごすことが出来ればと…… 食べながら、どんどん思考が麻痺していってるのを感じる。 深い懺悔の思いも再び沸き起こるのを感じる。 所詮クリスマスなんてこんなものかと、半ば壊れかけた思考で考えた。 |
最後まで読んで下さってありがとうございます。微妙なものに仕上がりました。最初、本当のギャグテイストにしようかと思っていたのですが書いているうちにどんどん別のものになってゆき……。ダック不幸でスミマセン。焦って書いたもので、自分でも何がなんだか分かっていないところが多々…エーゲドじゃないよ、これ(涙) |
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