新鮮な…食材

   
 いつものごとく惰眠を貪っていたゲドは突然の冷気に目を覚ます事になった。寒さに眉をゆがめながら薄ら目をあけて あたりを見渡すと夜閉めて寝たはずの窓が開いており、しかも普通の開き方ではなく何故か綺麗な円形状に割れている。 破片も飛び散る事なく綺麗なものだ。そんな様子を何ともなしに見ていたゲドは外から声が響いてくるのを聴いた。

「や、やめろっ!!本気か!?」

 どうやらヒューゴのお目付役である。ジョー軍曹の声のようである。またヒューゴがおかしな事を言い出して 彼を困らせているのだろうと見当をつけ、割れた窓に近付き外の様子を伺う事にした。"やめておけ"の一言を今だ 途切れる事ない声に向け放とうと視線を向けると思っても見なかった人物を見、咽まででかかっていた言葉を飲み込む。

 (エースッ!?)

 何故、エースと軍曹が一緒にいるのか、いい知れぬ違和感を覚え言葉を口に出す事なくそのまま様子をみることにした。

「さっきから言ってんだろッ!!分からない奴だなっ。」

「分からない奴は、あんたのほうだろっ!!」

 その様子を見る限りでは、軍曹を真ん中に挟んでヒューゴとエースが口争いをしているようだ。 間に挟まれている軍曹はかなり焦りを感じさせながら両者を見、隙あらば逃げ出そうとしているように みえる。いや、それともこの緊迫した状況は見間違いなのだろうか?いずれにせよ真相は当人にしか分からない。 気にする事もあるまいとひとり納得したゲドは窓から踵を返し冷たい風が入ってくる部屋に戻る事にした。

「大将〜〜!!」

 踵を返した途端に聞こえてきたエースの声に驚きその場で踏み止まる。見れば、眼下からエースが 自らを見やり手を振っている。そんな歳でもあるまい…と思いながら勢い良く手を振るエースに静かだが よくとおる声で話し掛ける。

「どうした……?」

「どうした…?じゃありませんよ!聞いて下さい!!大将、今日の為にとっておき用意しますからっ!! 待ってて下さいよ?予約誰ともいれちゃいけませんぜ?」

(今日の為?……とっておき……?)

 何の事かいまいち分かっていないゲドは、後の反応を予測しつつ疑問を投げかける。

「何のことだ?」

 そして、ゲドの予想を裏切ることなく信じられないといった表情で今日はどういう日なのか? 何をするのか、物凄い勢いで捲し立てはじめた。と、これ幸いと逃げ出そうと機会を見計らっていた ジョー軍曹がエースに背を向け出来るだけ遠くに逃げる為にダック走りで移動をはじめる。
 上から見える面白い様子をエースに知らせようと思っていたゲドだったが、ジョー軍曹の その必死の表情に鬼気迫るものを感じ、言葉を飲み込む。


「……ですからね、って聞いてます?大将?」

 まわりの様子など気付いていないエースは、何と言えない表情をしているゲドに疑問を感じ

「………!!!あ、あいつらッ!!と、とにかく大将は待ってて下さいよ!?」

 はじめてまわりの様子に気付き随分前に逃げ去ったジョー軍曹の後を追いはじめた。 一体何がやりたかったんだ?と疑問を感じつつ今度こそ冷たい風がはいってくる室内へ 戻り暫くジッとしていたゲドだったがさすがに冬の冷たい風がはいってくる室内には 長居することなど出来ず、身支度を整えると行く当てもなく自らにあてがわれた部屋をでた。

「よぅ、ゲドじゃねぇか。こんな日に一人なんて寂しい奴だな」

 部屋を出たとたんデュークにつかまり、先程エースがいってた言葉と同じものを 口に出した。エースの説明がいまいち分かっていなかったゲドは首を傾げ疑問を口に出す。

「こんな日とは、どんな日の事だ?」

 おおかたエースから聞かされているのではないか思っていたデュークだったが、そうでは ない事を知って内心笑い出したい衝動にかられていた。

(悪く思うな?エース。今晩ゲドは俺と熱い夜を過ごすことに決定だな)

「いや、何でもないぜ?それよりゲドお前、今晩予定あるか?」

「………あぁ。」

「なかったら、今晩酒でもつきあわないか?」

「いや、やめておこう……」

 ゲドの返事をしっかり聞く前に言葉をはっしたデュークだったが、ゲドの答えが予想と反した ものだったことに衝撃を覚えた。

「予定、はいってなかったんじゃないのかよッ!?」

「…予定はあるといった筈だが?」

 "分からないことをいう奴だな"と言いゲドはその場を去っていった。後に残されたデュークは 不満でいっぱいである。

(誰だ?ゲドの相手はッ!!エースの野郎か……いや、さっきの様子から察するに奴じゃぁ ないみてぇだからな……って言うと……一体誰なんだ!?)

 頭を抱え悩み出したデュークの足下には何時の間にか犬が群がっている。犬に気付くのは もう少し後の事になりそうである。


 デュークの元から離れ、やることのないゲドは城の中を見回ることにした。見回るゲドに かけられる言葉は先程のデュークと変わりないものであった。内心不思議に思うゲドだったが 何も聞くことはなく"予定はある"とやんわり断り続けた。



 ただ見回るだけなのに疲れてしまったゲドは、自らの部屋に戻ることにした。部屋の前まで 来るといまだにデュークがいた。何をしているのかと見てみれば、どうやら目を見開いて 失神しているらしい。そしてデュークの服には無数の犬の足跡がついている。人の部屋の前で 倒れることもあるまい?と考えながら邪魔に横たわるデュークをそこら辺に転がす。

 部屋にはいって感じるであろう冷たい風は吹いてはこず、逆に暖かい空気がゲドを包みこむ。 いつもは散らかった部屋も今は綺麗に片付いており、明るい光に満ちていた。が、その真ん中で ゲドの帰りをまっていたエースの姿が変である。どこが変だといえば……まず、血まみれなこと 、黒くこげている、息はかなり乱れている。まるで手強い相手と戦いをしていたみたいだ。
 そんなエースの表情は答えようもない喜びに満ちあふれ、達成感に酔いしれていた。かなり 恐い光景である。エースの顔から視線を外し手に持っているものを見やる。

「……それは?」

 ゲドの言葉を聞くや、

「クリスマスの鳥ですよ!!大将の為にとっておきを用意しましたぜ!!ついさっき漸く捕獲する ことができましてね、新鮮な内に調理してもらったんですよ。旨いはずですから食べてみてくださいよ!!」

「……あぁ、食べてみよう………。」

 一体何の肉なのか知らされることなく、鳥だということは分かっていたが、しかし只の鳥ならば 目の前にいるエースのような姿にはならないであろう。では、何なのだ?疑問を感じつつ手元にある 正体不明の鳥肉を口に入れた。エースが苦労したと言うだけあって、口当たりも良く美味しいものだった。 素直に褒め言葉を発するとエースはとんでもない言葉を口に出した。

「大将に旨いと言ってもらって、ジョー軍曹の奴もうかばれるってもんですよ。」

「………!!!!」

(……今、エースは何といったんだ?……ジョー軍曹?うかばれる!?)

 果たしてエースは自分に何を食わせたんだ?と思いながら悩む頭を抱えていると 勢いよく部屋のドアが開いて、エースとそう変わらない姿のヒューゴが入ってきた。

「お前ッ、軍曹をどうしたんだよッ!!!」

「あぁ、あの旨そうなダックな、見た目通り旨かったってよ。ね、大将旨かったですよね?」

「………!!!…エースッ!!さ、さっき食ったものは……」

「あれ?大将に言いませんでしたっけ?」



 もう、エースが何を言っているのか、自分が何をしていたのか分からなかった。 ただ感じるのは深い懺悔の思いと、"ゲドさん、本当なの!?"と問いただす 若き炎の英雄ヒューゴの声だけであった。

   

クリスマスだ〜ということで書いてみたものなのです。ネタは友人に提供していただきました。 素晴らしいネタをありがとうでした。またしても、ゲドさん不幸です。そして食べてしまいました。 エースがおかしいです。全体的に妙です。うぅ…シリアスとか書いてみたかったのに蓋をあけてみれば こんなものです。

novel top