道しるべ-02 |
「いいさ、話してやるよ。」 オレは、オレが見た夢は…… 冷たく澄んだ風をきって、雪原を獲物を追い掛ける夢。 「おまえらしいな。」 言葉に少し照れ笑いをして、いつもより若干軽くなった口をひらく。 「フリーズシティーにくる前、オレには、唯一心許せる仲間という奴がいた。 オレが、狼だという事を知ってもそれまでと変わりなくしてくれていた。 あるとき、そいつから離れる事にした。…そして、もう二度と仲間はいらないと思った。」 珍しく自分の事を話すツメの表情はいつもの皮肉に満ちたものではなく、 優しさに満ちていた。この表情がこの男本来の姿なのだろう。 ここまでに屈折した態度をとるようになった要因というのは、 よほどの苦痛を伴うものだったのだろうということが、語られずとも推測できた。 「……それだけだ。」 てっきり続くものだと思われた彼の言葉は、ここまでだと それっきり語られる事はなかった。 聞き手となっていたキバも、その先を促すでもなくまるで 話自体なかったかのように表情を変える事はない。 「そろそろ行くか?」 「いや、もうすこし……」 ツメの意外な言葉に少し目を開き立ち上がろうとしていた腰を元の位置に戻した。 先程からの意外な行動にキバは何があったのかと不思議に思う。 そっと、横を見やると遠い過去を懐かしんでいるかのような瞳が、静かに笑っている。 いつもならそのまま声をかけるが、今の表情をしているツメは 声をかける事、それ自体いけない事のような気がして、 何も言葉を発する事無くツメと同じように瞳を正面に向けた。 そして、二人の間に不思議な空気が流れる。 キバは思う。とてもささやかな事だが秘密を共有したという気持が、 それに大きく影響しているのだろうと。 全てが語られた訳ではなかったけれど、この先必ず話されるのだと 感じられるものがあった。 静かに正面からほぼ同時に、見合わせる形に瞳の向きがかえられる。 そして自然に、そっと唇が重ね合わさる。触れあうだけの軽いキス。 不思議と変には感じられなかった。 何気なく触れあう肩と肩のように、背中越しに感じる体温のように そういった普段感じるものと同じように軽いキスもおかしなことはないのだと、 自然に信じられた。 どれくらい、そうして腰を降ろしていたのだろうか。 自らの背丈よりも短かった影が背を伸ばし、 明るく日の光が照らしていた場所を黒で染め始めている。 「キバ……。」 名前を呼んだツメが先を話さないのに焦れて、何だと返してみれば 話すか話すまいかと逡巡しているツメの姿。 「……お前は…道しるべのようなもの、だと思う。」 ようやく話したと思えば、またも意外な言葉。 まさかツメがそんな事を口に出すなんてだれも思わないだろう。 「べっ、別にいいだろっ!?何を言っても。分かってるさ、オレが そんな柄じゃないって事はな。」 「誰もそんなことは言わない、オレは思わない。」 イラつきと、安心感と同時に存在する。 その言葉に結局、何も言い返せなくなってしまう。 どちらの言葉が自分の口をついて出てくるのか分らないのだ。 幸いなことに、今のところイラつきの方が多い。 それで良い、余計な詮索をされずにすむ。 でも今は自分から話したいという気持が強い。…何故、だろう。 「…お前は、いつでも正しく楽園を感じている、そう思う。 だから……楽園を信じられなかったオレが、信じようと思えるようになった。」 そう、先の見えなかった道を少しなりとも見えるようにしてくれた。 例え本人に自覚がなくとも、だ。 「…だから……。」 「お、おいっ!いたぞ!!狼だっ。」 話そうとしていた事は後を追ってきていた兵の声にかき消され、 すぐさま周りに散らばっていたやつらの仲間達を呼び寄せる。 「……っ!!」 今までの静けさが嘘のように、銃や衝撃波の音が四方から鳴り響き 瞬く間にその場を戦場に変えた。 「続きは後だっ」 「誰が、話すかよっ!!」 軽く言い合いをしながら二人はその場を後に走り出す。 捕まる気なんて全く無い、やつらに捕まるなんてお笑いぐさだ。 走りながらお互いが目配せすると軽く頷き 左右反対方向に向きを変え前へ進み出した。 キバは考える。ツメの言った言葉、その意味。そして、語られなかった続きのこと。 ツメは思う。何故キバに向かって素直な気持を話したのか。 思いを抱きながら、前へ、前へと。 進み続ければきっと、答えはやってくるのだから。 |
04.09.23
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終わらせました〜もとい、終わりました。 素直なツメ登場です。ありえないとか思いながら書いてました。 ツメの過去は嘘っぱちです。最後のDVD版4話を見ていないもので 他のサイト様の感想など見てしまったところ、どうやら違うみたいなのですよね。 あぁ、悲しい。 |
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