思心

   

あの日、世界から色がなくなった時。
ふと我にかえると、頭の中を絶望と言う名の二文字が過った。
それまで当たり前のように見ていた光景が次第に見れなくなってゆく。
力の代償として自らにかせられたこの呪いは
力を手放す事でしか解かれることはないと、思って……いた。




色の洪水
溢れる名もない色
いろ、イロ、色
ふと頭の中にそんなフレーズが過った。
自分の目で見る事の出来ないものを何故思い浮かべたのか?
きっと答えなど、ありはしない。
ふと浮かんだ。それだけだ。
あいつとのことも、成り行き。
時がたてば過去の過ぎ去りし記憶として埋没してゆくのだ
そう、特別なんて事はありはしない。
自分に言い聞かせるように、言葉が口をついてでる。
そんなゲドの思いとは対照的なからっと晴れた青空が、
悩むのは良くないと知らせる。まるであの男のようだと思った。


一体このことを思うようになったきっかけというものは何だろう。
考えるほど何時もの不毛な繰り返しになる。
目の前に広げられた本の内容など頭に入ってはこず、
ただ目で文字を追っているだけの動きもいつのまにかとまってしまった。
ぼんやりとその空間を見つめるだけだ。
何気なく顔を上げると開け放たれた窓から、
どこまでも続く空と太陽の光をうけて煌めく草花が目にとまる。
空は青色、草花は緑色から黄色、桃色、赤色様々な色をみせる。
これはこの色だと理解しているものの、
最後に見た色の姿はあまりにも過去のような気がして
色彩の境界線があやふやだ。

「色か……。」

「ゲドさん、あんたにお客だよ。」

ふと呟いた声と重なりしばらく厄介になっている
宿の主人の呼び声がひびく。

「通してくれないか…。」

低いが良く通る声で返事を返す。
逆光に眩しげに目を細めた線の細い男がゆっくりと扉をあけて
目の前にあらわれると、外からの砂埃がそっとゲドの傍を通り過ぎた。

「隊長……お久しぶりです。」

あの頃よりも幾分か落ち着いた声で話すジャックをみて、年月がたったのだと
今さらながらに実感する。

「そうだな……あれから、皆はどうだ?」

「変わりはないです、と言いたいところですが……。」

口調を濁したと言う事は、誰かしら変わったということだ。
無理も無い、この十数年という年月で変わらないという方がおかしい。

「それで、変わったのは誰だ?」

何となく予想はついていた。でも、はっきりとした事が知りたくて言葉を促す。
それでも、少し言うのを躊躇したジャックは、ゲドを思ってのこと。
辛い思いをさせたくないのだ。

「…エースです。隊長が姿を消したあの日から、別人みたいに何も話さなくなりました。」

やはり……頭の中を言葉が過った。
何も話さないエースというのは全く想像もつかないが、
見ていたジャックがそう言うのだから間違い無いのだろう。
でも、仕方がなかったのだ。
あの時、皆の前から姿を消さなければ今より酷い状況が待っていたのだろうから。
自分自身の事で精一杯だった。

「エースは……今、何処に…」

(何をいっているんだ、俺は…)

今さら…という言葉が頭を過ったが、知りたいと思う気持ちを押さえる術が思い付かず
自然にエースの名前がもれる。意識的ではなく誰かが自分の口を借りて言葉を
発しているかのように。

「ゼクセから少し離れた、小さな村にいます。」

後にジャックは言葉をつなげる。その場所にいるのを最後に見たのは1年程前で、
今も同じ場所にいるとは限らないと。

「隊長…行くんですか?」

別の場所にふらふらと旅立ったかもしれないと聞かされたばかりだというのに、
おかしなもので、ゲドにはまだその場所にエースが留まっているように思えた。

「あぁ、そのつもりだ。」




元々、自らの荷物なんて無いに等しいゲドであるから、ゼクセ近くの村に
向かうにしても殆ど用意なんて必要ない。身一つと最低限の装備それだけで十分事足りる。
しばらくジャックと話をし彼が去るのを見届けた後、早速準備に取りかかった。
日が暮れる頃には全てが終わり、すぐにも旅立てるという状態になった。
そのまま村を出、旅立ってしまうのも良いように思えたゲドではあるが、
ジャックが見たという村にエースが確実に留まっているであろう確信が
あったため、次の日の早朝に旅立つことにした。

「世話になったな…。」

食堂になっている宿の1階に腰を落ち着けると、最後の酒と簡単な食事を待つ。
その間、料理の用意に取りかかっている宿の主人にぽつりと簡単な言葉をかける。
けして、愛想の良いとはいえない顔で主人がくしゃりと顔をゆがませ笑った。





まだ、完全に夜が明けず肌寒さを感じる時。ゲドは前日にまとめていた荷物をもち
エースが留まっているという村に続く街道へ歩みを進めはじめた。
はやる気持と比例して、歩みも早い。無意識なのか表情が明るい。
それまでの、全てがどうでもいいという姿とは大違いだ。


夜になれば近くの木陰で野宿をし、朝になれば歩みを進める。
単調でゆっくりとした歩みではあるが着実に彼の元へと進んでいる。
何ものにも深く関わらず、時が止まっていたかのような状態から
たいした進歩である。




そんな日々を過ごす事、約6日間。
目の前に見覚えのある風景がうつり込んできた。
ビネ・デル・ゼクセ方面へ向かうときには必ず目に入るであろう、ブラス城。
その堅牢な石造りの城は姿そのままで鎮座していた。
ふと頭の中に水の紋章を受け継いだ娘のことが頭の中をよぎる。
同時に同じく炎を受け継いだ少年の事も。
紋章を長く身に宿し続ければ、
まるで生まれでてからずっと身体の一部であるように錯覚をしてしまう。
強大な力、不死の体…そういったものが身の内に宿る。
あの、五行の紋章をめぐる戦いで初めて紋章を身に宿した彼等もまた同じく
そういった思いを感じながら日々の生活を過ごしているのだろうか。




ジャックから教えられた、エースがとどまっているという村は、
ブラス城を過ぎた、すぐ近くにあるという。
あの闘いの頃には名もなかった小さな集落だ。
思いを過去へ巡らすと、そういえば…という記憶が浮かんでくる。
何度か森に囲まれた小道を進んでいるときに、近くで人の生活する気配を感じたな、と。



  06.02.10

久しぶりに幻水3の小説更新であります。
随分前から書いてはいたのですが、あまりにもトロトロやりすぎたので
スピードアップも兼ねて途中まででupですよ。
続きはどうなるのか自分でも考え中……(汗

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