冷夜

   
冷たい雨
いつまでも降り続き一向に止む気配気配すら見せずにいた。

南部辺境警備十二小隊
そう呼ばれる彼等は降り続く雨の中駆けていた。
季節は冬、はく息は白く身を切るような寒さが彼等を襲う。
しかしここで止まることは出来ない、それすなわち『死』を意味すること。
流れる血は雨で流れ地面に吸い込まれゆく。
遠くで轟く雷鳴を聞きながら彼等の隊長ゲドは思う、
(血でぬれたこの地からはどんな命が生まれるのだろう)と

ふと心によぎった思いは少し、ほんの少しだけ動きを鈍らせる。
こんな時で無ければとるに足らないもの、
しかし今の状況での狂いは少しではなく大きなものとして
その身に降り掛かることになった。
雨と雷鳴、地を踏み締める音、それに重なるよう高い音が
"パンッ"
と辺りに響く。

「クッ……!」

音と同じくしてゲドの口から苦し気な声が漏れる。
見れば赤黒く染まった腕が更なる赤に染まってゆく。


「大将ッ!!」

その様子を一番最初に気付いたのは近くで駆けいてたエースで、
エースの声で振り返った3人もそれぞれ驚きの声をあげる。
彼等の足は止まり腕を見遣るゲドの方へ歩を進めるが、


「大丈夫だ……それより早く行くぞ」

一声、心配ないとメンバーに向け言い切ると
自らが先頭にたち赤く染まる腕はそのままに駆けはじめる。


「血ぃ、出てますが…っ本当に大丈夫なんですかい?」

エースは走るゲドの傍で心配げに訪ねてみたが、もとより流れているのだから
変わりはあるまいと言い切られてしまってはどうしようもなかった。




今回のミッション、調べを進めるうちどうやら
『吠え猛る声の組合』が絡んでいることが分かった。
きっと本国では最初から分かっていたことなのだろう。
ハルモニアという国はそういうことを普通にやってのける。
ゲドはその事を薄々感ずいていたとはいえ、
確かな確証が無い為他のメンバーに知らせるのが遅れた。
知らせた時にはもうすでに遅く、追手がすぐ近くまで差し向けられた後だった。
傭兵は危なくなったら逃げる、
今回もそういった事があるのですぐさま場を離れる事になった。
なったが、一時は追っ手に追い付かれ戦闘が始まる事となる。
相手はガンナーそれまで相手にしてきた敵とは違う、
位が上のガンナーでは無いにしろその威力は易しいものではない。
そのうえ剣や紋章をつかうものまでがおり、
統制がとれた動きに思いのほかダメージを食らう事になったのだ。
そして、今に至るわけである。


一先ず近くの茂みに姿を隠す、
それで逃げ切れるとは考えていなかったが一時の時間稼ぎをする。

「それで、これからどうするんだい?」

ゲドに問いかけ、皆が伺うように瞳をみる。
一瞬の静寂が生まれ一息ついてから静かな口調で話だす。

「そうだな……固まって逃げるとそのぶん見つかりやすくなる、
散開し場所を決めて落ち合う事にしよう…」

その言葉に皆頷き散開をはじめそれぞれ別の方向へ散っていった。
自然とゲドの傍にはエースがつく。


「ゲドの事、頼んだよ?」

散開する直前にクイーンに囁かれた言葉。
言われなくても分かっている、
そう返すとアタシじゃ駄目みたいだからさと幾分悲し気な口調で呟き

「さぁ、行こうじゃないか!!」

それをふっきるかのように力強い言葉を投げ掛ける。
言葉を合図にクイーン、ジョーカー、ジャックの順に
降りしきる雨の中、傷を負った我が身を抱え
先にある希望に向かい一歩を踏みだした。


「さぁ、オレ達もいきましょうや」

先程のクイーンの言葉を噛み締めながら努めて明るい口調で話し掛ける。
幾分場違いな明るさだったが、その明るさが今のゲドには頼もしく思えた。

「あぁ、行くか…」

横目でエースを見頷くと走り出した。




息が荒い、走る事によるものとはまた別の…
エースの己を見る心配げな視線に気付き、大丈夫だと頷いてみせる。
しかし、エースには無理をしているように思えていた。
何時も大丈夫だと頷いてみせる時のような力強さが感じられない、
自分の思い過ごしのような気もするが……
とにかくゲドの事をそのままにしておくわけにはいかない、
そう決断し異を決して横で走るゲドに声をかける。


「ここら辺で少し休憩しませんかね?」

エースの提案に少し歩みを緩め頷く気配こそ見せるがいまいち乗り気ではないゲドに


「ほ、ほら、あれじゃないですか。
随分遠くまできましたし、追手もそう簡単に追い付いてきませんって、
それに…オレが休みたいかな、なんて……」

どうしても今休みたいのだという思いを強くだしながら話す。
語尾は伺うように自然声が小さくなりゲドの返事をまつ。
どうしてもここで休みたい、いや休ませたい。
気力だけでこの場に立っているのがありありと分かるだけに
ここはどうしても頷いて欲しかった。
やや間をおいてから分かったと頷くのが見て取れた。
程よい場所も見つかり周りを警戒しながら2人は草の茂った地に腰をおろす。
しかしいくらこの場所が木の影となっているとはいえ
落ちゆく雨を完全に遮断することはなく、
直に届くものと葉から伝うものと両方の雫が冷えきった体を
更に極限の状態にまで近付けてゆく。

「エー、ス……ッ…もうそろそろ……行くぞ?」

腰をおろしてから程なくゲドが言う。
苦し気な息はそのまま、体力も殆ど回復していない、そんな状態であった。
その言葉にもう少し休んでおきましょうやと声をかけるエースだったが、
ゲドのもっともな言い分に腰をあげる。


雨と暗闇に遮断された空間、
ゲドと共に走る2人だけの世界がいつまでも続くように、
この時が永遠でありますようにと不謹慎ながらにも思うエースであった。
暫く走ると前方に黒い固まりが見えてきた。
よく目をこらしてみてみると小さな小屋だということが見て取れた。
こんな場所に不思議だなと2人思わず目をあわせ、もう一度小屋に視線を送る。

「大将…?あの小屋は……」

「……大方、山に入った人々がひと休みする為に作られたものだろう…」

その後に罠かもしれないがと付け加えるのを忘れることななかったが、
エースに問われ何となく思っていた事を一息に言う。

「とにかく、あの小屋に入るぞ」

「え…?えぇっ!!大将、罠だって…」

焦るエースを後目に大丈夫だと小屋に向け足を進め、
扉の前まで来ると一旦立ち止まり軽く周りや小屋の中を警戒する。
そしてまるで自分の家か何かのように堂々と扉を開き中へ入って行った。
様子を呆然と見ていたエースだったが
中から聞こえた何かが倒れる音にはっとなり、
周りを警戒しつつ慌てて倒れる音が聞こえた小屋の中へ入っていった。
悪い予感が当たりませんようにと……

   

もしかしたら読んだ事があるという方がいるかもしれないこの小説……今とある場所で別の名前で書いております。あちらよりこちらのほうが早くupされるという事はまずないかと思いますです。
長くならないと思いながら書いたこの小説、やはりそんなことはなかったようです(涙)と、いうことで続くのです。

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