冷夜-02

   
「た、大将!!!」

悪い予感というのは大抵あたるもので、
今回も考えていた通り自分にとって最悪な状態が目の前で起こっていた。
苦し気な息をはき俯せに倒れているゲド。傍により抱き起こすと、
顔色はとても悪く塞がっていた傷口からは、新たに赤い血が流れているのが確認できた。
そして長い間冷たい雨風に晒され冷え切っている筈の体は熱を持ち燃えるようだった。
とにかくきている服をかわかし酷く出血している傷口の手当をせねばならない。
小屋のわきに積んであったまきを中に運びこみ火をつける。
暗い室内が光をもちゲドの赤黒く染まる体が浮かび上がってきた。
暗闇で見るのよりも、より顔色が悪いのを感じる。


濡れた服をどうにかしてぬがし室内を見回すと
大分ボロくなっているであろう毛布をみつけた。

「大将ひとまずこれで耐えて下さいよ」

残り僅かな傷薬を全て掻き集め熱で震えるゲドのもとへいく。

「エース…」

熱にうかされエースを呼ぶゲドの声からはいつもの力強さは感じられない。
不謹慎だと思いながらもエースは体の奥が熱くなってゆくのを感じていた。




このまま自らの欲望に忠実に行動すれば体の熱はおさまるだろう。
そう、このまま……
一瞬考える事を放棄したエースは熱い吐息をはく唇をそっとふさいだ。
いつも以上に熱く感じられるそこに煽られ深く深く口内を貪る事になり、
そのクチュクチュと湿った音が辺り一帯を濃密な空気に変化させていった。
行為に夢中になっているエースはゲドの体の事など全く考える事はなく、
ただ己の目の前にある欲望の対象を飢えを潤すかのように貪るだけであった。



一際大きな雷鳴が轟き暗い室内が一瞬明るく照らされる。
その大地が割れるような大きな音よりも目のすぐ前に見える
ゲドの青ざめた苦し気な顔に忘れていた理性を取り戻し
エースは大変な事をしでかしてしまったのだと深い後悔の念にかられた。

「た、いしょ……」

静かに呼んでみる。しかし、自分が欲している反応が返ってくるわけもなく………

…コンッ……
………ドン、ドン…

外に吹き荒れる風音、雨音にまぎれて微かに扉を叩く音が聞こえてきた。
最初は小さくよほど確り聞いていなければ分からないであろう音で……
それが次第に大きくなり外の音にも劣らない程の大きさになり
より鮮明に聞こえじはじめた。
さすがにそれだけの音になるとエースの耳にもはいってくる。
苦し気なゲドはそのままに大きな音が聞こえる扉の前まで進む。
そっと、少しだけ扉をあけ小さな隙間から外の様子を伺うと
雨に濡れた白髪の老人が杖をつきじっとこちらの目を見返してきた。
その事に少し驚いたエースだったが、

「誰だ……?」

聞こえるか聞こえないかの低い声で老人に訪ねると、
さぁ、誰じゃったかのぅ……と
小さく呟きその後、小屋に入れてくれとエースに言ってきた。
外は雨だし入れてやるかと思ったエースではあったが、
奥で寝ているゲドの事が頭によぎり、警戒心と疑心感を生んだ心が
一見無害にみえるその老人の事が追手か何かに感じられ
扉をあけなければ良かったと即座に後悔をした。

後悔は最初に何かがあって成立するもので、
先に後悔をすることなどあり得ない。
扉を開けてしまった事は変わることはなく
目の前にいる老人も消えてしまうことなどあり得ない。
舌打ちしたいのをこらえながら、
自分は申し訳なく思っているんだという表情を作り老人に向け言葉を発する。
拒絶の言葉である。
素直に聞き入れてくれるならそれで良し、もしも聞き入れずその場を動かないのなら…
物騒なことを考えるが理性が押しとどめる。さすがにそんなことをしては駄目だと。
すっと目を細めた老人はエースの心を読みとっているかのようにぼそっと呟く。

「………無駄じゃよ…」

くぐもった声に言っていることが理解出来なかったエースであったが、
数秒の時をおいて老人の言わんとしていたことが分かってくる。
と言う事は今さっきエースが心うちで考えていた事が、
目の前の老人には手にとるように分かっていたと……

「そんなことはないっ!!」

大きな声で先程の考えを打ち消す。そんなことがあるはずは無いのだと。

ガタッ…

少し静まった室内にその音は大きく聞こえた。
目の前の何だか分からない老人に、自分の考えに意識を奪われていたエースだったが
静寂の中に聞こえる音に気付かない訳はなく、ゆっくりと頭を室内へ向ける。

「…エース……何が……?」

見れば上半身をおこしエースの傍までこようとしているゲドの姿が認められた。
途中で足がふらついたのだろう、
膝を地面につけ見上げる感じでエースへ視線を向けている。
その姿をみとめ焦ったエースが大将と声に出して呼ぶ前にゲドの方から口をひらく。

「……誰…か、いるのか?」

ゲドの声にちょうど言葉を止められる事になったエースは
少々消化不良気味の表情をし、無言で自分の体で隠していた扉の外をゲドの前に晒す。
薄く開いていた扉は外の姿を、老人の姿を良く見せる為に大きく開き
外の激しい雷雨を変化のない室内へ呼び込む事になった。
激しい風が室内へ吹き込んでくる。
その風に一時顔をふせ今度こそ今の状況を知るため扉の外へと視線を向ける。
老人だった。雨に濡れた白髪の老人。
この位置からでは表情を伺い知ることは出来ないが、
ゲドの目にはその老人が笑ったように思えた。

「この通り、外は雨じゃ……暫く中で休ませてもらえんじゃろうか?」

笑ったように思えたのは気のせいだったのだろうか、
老人が発した声からはそんな様子など全くなかった。
どうします?と後ろを振り返ったエースが無言で訪ねてくる。
聞かれるまでも無く答えは決まっているのだ、それはエースも分かっているはず。
なのに何故小屋の中へと招き入れていないのか、ゲドは不思議に思う。

   

ようやく文が書きたまったので更新をば……訳が分からない事になってます。老人って何よ?みたいな(笑)

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