思心-03

   

最初はただ、うっとおしいだけの男だった。だがいつしか思いは変わった。
いつの事なのかは分らない。
分らないが、いつの間にか強い嵐のような強引さで殻を破り、
心の奥底まで辿り着いていた。
このまま、エースが傍らに居る時間が永遠と過ぎてゆくのだろうという
漠然とした思いが己が内に息づいているのを感じたとき
途端に恐ろしくなった。このままではいけない。
長く同じ時を歩んではいけない、と。
どんなに分りあえたとしても、根本では全く違う者。
『死』を与えられる者とそうではない者。
いや、望めば手には入るのだろう。ただ己が望まないだけ。
臆病な自分。分かっていながらもかつてのライズのような道を選べなかった。
目の前から去る事を選んだ。


……この選択は間違っていたのだろうか。


平静だった心が次第にざわついてゆく。ヤツが近くにいると思うだけで
気持が乱される。逢いに出向かななければ良かったのか。
あのまま、一人のどこにでもいる旅人として暮らしていれば良かったのだろうか。
一旦、逢いに行くと決めた心がゆれている。悪い癖が頭を覗かせている。
それでも、それでも……逢いに行かねばならぬのだろう。
この、どうしようもない思いに答えを見つける為に。


パチパチと火のはぜる音の合間から遠くで啼く梟の声が聞こえる。
ゲドは、そのどこか物悲しい声を聞きながら緩やかな眠りに身をまかせた。

(きっと、…明日になれば、全てが………)







 前を行くのは…誰……だろう
 懐かしいような その後ろ姿は……
 長い間 姿を見る事叶わず、自らの心をとらえて放さない
 強い、背中……

 そう、彼だ。

 振り向かせたくて、足掻いて…足掻いて、
 全身全霊かけて思いを伝えて…
 姿を消した "ゲド"
 これは、再現しているのだろうか
 前を行く姿に声をかけても、力いっぱい追い掛けても
 どんどん放れてゆく…白の中へ消えてゆく
 生きてゆく場所が、違うんだと 離れた場所から伝える彼
 その瞳が悲しみに濡れているのは  気のせいではない筈

 だったら、何故!?


「…た、いしょ………教え、……くだ…」

もう、随分見ていない夢。この地に辿り着く以前、辿り着いてからも
何度となく見てきた夢だ。久し振りの夢に高ぶる感情……
いつまでたっても忘れる事なんて出来やしない。
考えまい、考えまい…としながらも、必ず何らかの形で思い起こされるのだ。
外で啼く梟の声が何故か無性に苛ついて、馬鹿にされているようにすら感じる。
普段は心地よい子守唄かのように思えるというのに、
決まって、この夢をみるとひどく苛つく。

「くそッ!」

眠れやしない。乱雑に散らかる部屋の中へ足をおろし、
机の上に置かれた酒瓶から直接酒をあおると、幾分気分が落ち着いてきた。
酒の力を借りないと眠れない己の滑稽な姿に笑いが込み上げてくる。

随分な落ちぶれようじゃないか。

「クックックッ…」

笑っているのか、泣いているのか分からない声をたてながら
酒気を帯びた体を横たえる。
もう、あんな夢なんてこりごりだと薄れゆく意識のなか祈るように、そう思った。










 …た、いしょ………教え、……くだ…



朝霧につつまれた静かな朝、高い声で啼く小鳥の綺麗な声が時折聞こえてくる。
あぁ、朝なんだと、ゲドは重い瞼を静かに開けた。
普段の目覚めは良い方だが、今日はどこかすっきりしない。何か夢でも見たのだろうか。
重たい体をそのままに再び瞼を閉じると、小鳥の声に耳を傾けた。
澄んだ歌声が体に染み渡り、重い体も徐々に平常へと戻ってゆく。

朝霧が姿を消し、多くの生き物が活動を始める頃、
あと少しの歩みを進める為にゆっくりと起こした体を立ち上げた。




  07.09.18

はい、随分と時間がかかってしまいました。が、まだ終わりではありません。
おそらく、次こそは終わりだと思いますよ。相変わらずのグダグダ話ではありますが、
おつき合い頂ければ幸いでございます。

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